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夫婦で営む小さなバーの厨房から見える悲喜こもごも・・・


by delicayumama

咲く花を散らさじと思ふ御吉野は 心あるべき春の山風

吉野から数ヶ月ぶりに小鹿が降りてきた。
また一段と痩せて声に力もなく
一生懸命耳を傾けなければ聞こえない。

飲物の注文もせず溜まりたまった話を始めて数分。
ビールでも飲んだら?と言うと、少し考えてじゃあビール。
でも目の前に出されたビールに口もつけずにまた数分。

ようやく話に一段落したか
やっぱりビールやめとく。自分がどうなるかわからないから。
これママ飲んで・・はいはい、じゃあアナタはノンアルコールで。
ほんとは飲める人なのに、ほんとは飲んで酔いたいだろうに。

幸い他にお客さんもなく彼のための宵の口。
家のこと・・親のこと、兄弟のこと、介護のこと。
仕事のこと。恋愛のこと。体のこと。何一つよい話はない。

言うか言わないかの違いで実はみんないろいろ抱えてるんだよ・・
なんてありきたりの慰めの言葉しか言えない自分も歯痒い。
いいことあるんかなあ・・
そんなときまで生きてるかなあ・・
無理やなあ・・
彼の口からは悲観的な言葉しか出てこない。

彼の話も昨年から何度か聞いた。
聞くたびにこちらの心も重くなる。
悪いねえ、こんな話ばっかりで・・いえいえ、聞くだけしかできないんで。
それに聞くほうは時間がたてば忘れていきます。
でも小鹿さんは家に帰れば現実が待っているわけですから。

二時間少し話した頃、二人目のお客さんが来て、彼は帰っていった。
今度はいつ来られるかわからへん・・まま、元気でな。

彼からご馳走になった二杯のビールはアルコール濃度がよほど濃かったのか
朝起きの体にしっかり残っている。

誰にでも平等に朝はやってくる。
小鹿さんの目に映る吉野の今朝の空は少しは晴れ晴れしてるといいなあ。
咲く花を散らさじと思ふ御吉野は 心あるべき春の山風_d0154508_7352996.jpg

by delicayumama | 2011-08-04 07:37 | Invité(お客様)